国際障害者交流センター(ビッグ・アイ)は、障がいのある方も、ない方も、
すべての人にご利用いただける施設です。障がい者が主役の芸術・文化・国際交流活動の機会を創出し、
障がい者の社会参加促進をめざします。施設内には、多目的ホールや研修室、宿泊室、レストランを備えています。
プロジェクト
【日本語版】DanceCamp+ 2024に寄せて.pdf
【English ver.】Impression of DanceCamp+ 2024.pdf
阪本 洋三(さかもと ひろみ)
2023年夏に始まった “Dance Camp(ダンス・キャンプ)”の第2弾である “Dance Camp+(ダンス・キャンプ・プラス)”が、2024年8月10日から12日の3日間の日程で、国際障害者交流センター ビッグ・アイにおいて行われた。周知のことだが、ビッグ・アイは「国内外においても数少ない完全バリアフリーの施設」であるのみならず、ソフト面においても、これまで「障害者の文化芸術活動、及び、国際交流活動のサポートのノウハウ」を蓄積してきた貴重な施設で、日本が世界に誇れる「障害者&アート&国際交流」活動のメッカであり、一大発信地である。
障害のある人たちにとっては、海外の人たちとの交流は容易に行えることではない場合が多い。そんな中、この “Dance Camp+”では、マレーシア、香港、韓国、アメリカ合衆国(ニューヨーク)、そして日本各地で活躍するダンス・アーティストや振付家、ティーチング・アーティストたちが招かれ、広い意味での「ダンス」を活動の中心に据えた、多種多様なワークショップが展開された。
*ティーチング・アーティストとは、芸術や文化活動に関する専門的な知識や技術を持ちながら、それを教育現場やコミュニティー活動で活かし、人々と共有するアーティストのこと
(写真)チラシ表紙と講師の写真
この3日連続の企画への応募者数は200人、うち障害者132人、参加者数は150人で、うち障害者は88人だったという。
残念ながら、スペースやサポート人材の関係で、全てのプログラムに全ての応募者が参加できる余裕はない。しかしながら、ビッグ・アイでの活動は、その行き届いた支援のあり方、多種多様な障害に対応したサポート要員の配置等を通して、多くの障害者にとって「安心・安全」かつ「エキサイティング」なものであり、機会さえあれば参加したいと思う人たちは増加している。そして一度参加すると「また参加したい」と考えるリピーターも多く、そこで出会った人々の輪が広がっていることも一目瞭然であった。
日常生活において芸術や国際交流の活動がしたくても難しい人たちが、アート活動に触れ、国際交流活動に参加できることは憲法第25条の「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と言う視点からもとても重要である。そして、様々な身体のありようや表現活動が、障害者と健常者の垣根を超えて交流したり、見知らぬ異国・異文化から来られた人たちと出会って交流が生まれること、そこから個々の主張や生き様を存分に主張し合える場所や時間、民主的な「公共空間」が出現することは素晴らしいことである。だから、このような人類愛に満ち、温かい人間性にあふれた光景については継続や拡散をしたいし、体験や支援についても声高に「推し」て賛同するものである。
今回の一連のワークショップは、マレーシアのダンスカンパニーDua Space Dance Theatre(ドゥア・スペース・ダンス・シアター) を皮切りに、3日間で6つのプログラムが行われた。以下にそれぞれのプログラムについて言及したい。
Dua Space Dance Theatre(ドゥア・スペース・ダンス・シアター)の人たちは優しく、指示がわかりやすく、やっていて楽しいプログラムを進める中、それでいて「集中力を注ぐこと」や「他者との協力を促進する」といった、同じ空間と時間を共有することでしか得られない「喜び」や「高揚感」を参加者に体験させることに長けていた。また後半、マレーシアのエスニック・ダンスを学ぶことで、異文化理解の促進に踏み込んだ部分は、国際理解を深める上でもとても良いプログラムだと思われた。
(写真)Dua Space Dance Theatre ダンスワークショップ風景
ダンスチームYOZIGENZ(ヨジゲンズ)のShunji(シュンジ)氏は、特に若い世代を気持ちよく踊らせることに長けていて、ブレイキン等の動きも使いながら、とことん一人一人が「楽しめる」瞬間を次々と体験させていた。参加者に自分をチャーミングに魅せるポーズをいくつも考えさせて踊らせたり、そこからリズムに乗って表現の幅を広げていき、ダンスへと変化させていくことをどんどん繰り返して、作品へと発展させて繋げていくところは、見ている側をもどんどん笑顔と興奮に導いていった。
(写真)Shunji ダンスワークショップ風景
Mary Jane Tang(メアリー・ジェーン・タン) 氏は、個人の劇的想像力と身体的表現力を徐々に高めていくような課題を積み重ねる中で、今度は集団の劇的想像力と身体表現力が一つの大きな作品を作っていくことができる、という体験に参加者を導き、まるで以前から存在していたようなコミュニティーが浮かび上がってくるような現象が展開された。
(写真)Mary Jane Tang ダンスワークショップ風景
Kim Wonyoung(キム・ウォニョン)氏と 森田かずよ(もりた・かずよ)氏のワークショップは、自分の内にあるエネルギーを見つめること、そして自分を大切にしながら他者との関わりを「感じる」こと、そのことを日常よりも丁寧に、静的に、知的に深めていく体験をもたらす不思議かつ温かいワークショップとなった。
(写真)Kim Wonyoung、森田かずよ ダンスワークショップ風景
田畑真希(たばた・まき)氏のワークショップは、彼女のとことん行き届いた「気づき」「いいところを褒め続け」、彼女が見ている「現象を常に他の人たちと共有する」言葉化の努力によって、その場を盛り上げ、参加者意識を高め、一人一人が自分の尊厳や他者へのリスペクトを保つことが「当たり前」な空間を創出した。
(写真)田畑真希 ダンスワークショップ風景
Ping Chong + Company(ピンチョン・アンド・カンパニー))は唯一、ダンスではなく演劇のワークショップを行った。身体性以上に言語的表現が求められた中、一連のワークショップの最後のプログラムであったこともあり、これまでの集大成のような雰囲気の中、参加者は非常にのびのびと楽しそうに活動を行い、「グループ発表」では劇的想像力に満ちた表現が多く見られた。
(写真)Ping Chong+Company シアター・ワークシップ風景
全てのワークショップ終了後にワークショップ講師たちによる「ラウンドテーブル・ミーティング」がカジュアルな形で行われ、私も進行役として参加させていただいた。多くの講師陣が他の講師たちのワークショップを体験できたことで、お互いのプログラムのユニークさや面白さ、参加者との向き合い方を学び合い、刺激し合えたことがこの場では確認できた。さらに「またここビッグ・アイでこのような企画をしてほしい」に始まり、「ぜひ香港へお越しください」とか、「次はクアラルンプールでも」といった、「障害者・ダンス・国際交流」を共通項にもつ人たちのコミュニティーの広がりを実感できる場となった。この時、多くの講師陣からビッグ・アイの持つ「とても充実した」「至れり尽くせりの」ハード面、ソフト面両方への「賞賛の声」が聞かれたことは特筆すべきだことと思われる。
真夏の大阪で繰り広げられた貴重なワークショップの数々は、世界で障害者のアート活動を実践してきたティーチング・アーティストたちが、思い切り彼らのもつ経験、知識、スキルを使って一人一人の参加者と向き合う瞬間の連続だった。そこには人間同士の温かく、美しく、愛情に満ちた交流と「生きている喜び」の表情を浮かべながらそれぞれの身体表現を求めて汗かく個性豊かな人たちがいた。私たちは平和を享受する法治国家、民主主義国家の市民として、実はこのような活動にこそ常に支援の手を差し伸べ、本当の意味での「幸福」と「国際理解に基づく協調と平和」を追求すべきなのではないだろうか。
(写真右)阪本 洋三氏
阪本 洋三(さかもと ひろみ) |
撮影:株式会社500G
Breakthrough Journey Dance Camp+
(日程)2024年8月10日~8月12日
(会場)国際障害者交流センター ビッグ・アイ 多目的ホール
*情報サポート 手話通訳(日本語) 日英逐次通訳
プログラム① Dua Space Dance Theatre ダンス・ワークショップ
プログラム② YOZIGENZ-ヨジゲンズ ダンス・ワークショップ
プログラム③ Mary Jane Tang ダンス・ワークショップ
プログラム④ Kim Wonyoung with 森田かずよ ダンス・ワークショップ
プログラム⑤ 大阪府障がい者舞台芸術オープンカレッジ2024 田畑真希 ダンス・ワークショップ
プログラム⑥ 指導者・支援者に向けた Ping Chong and Company シアター・ワークショップ
(主催)国際障害者交流センタービッグ・アイ 独立行政法人日本芸術文化振興会 文化庁
(連携)大阪府
(後援)公益財団法人大阪観光局 公益社団法人堺観光コンベンション協会 独立行政法人国際交流基金
(協力)Arts with Disabled Association Hong Kong Dua Space Dance Theatre Ping Chong and Company
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