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お知らせ
2022.11.23
愼英弘の部屋
「視覚障害教師の会の活動と課題」
視覚障害者とりわけ全盲者が就いている職業はいろいろあるが、最も多くの人が携わっているのは「あんまマッサージ指圧、はり、きゅう」の仕事である。これは「三療業」あるいは「あはき業」と呼ばれている。
この三療業・あはき業は江戸時代以来の視覚障害者の中心的な職業であり、400年にもわたって視覚障害者の生活を支えてきた伝統的な職業である。この三療業・あはき業以外にも視覚障害者の伝統的な職業としては箏や三味線の演奏技術の指導がある。
これら伝統的な職業以外にも、さまざまな職業に視覚障害者は携わっており、その職業を一般的に「新職業」と呼んでいる。
今回は、視覚障害者の新職業のうち、学校における教師を取り上げて、その情報交換等のための組織や、教師を続けるための課題等について述べることにする。
1.公立学校における教師の始まり
今から120年以上も前の明治時代において、いわゆる「盲人」と呼ばれていた全盲の視覚障害者が学校の教師をしていた実例はある。しかし、それは、現在のように教員採用試験に合格しての採用ではない。校長が優秀だと見込んだ生徒が卒業した後に教師として採用しているのが一般的であった。つまり、教師になりたい「夢」を実現するために、教師になる資格を取得し、教師になるための何等かの試験に合格して採用されるために自らが挑戦して教師になっているわけではなかった。
戦後になって教育関係の法令が整備され、とりわけ1947(昭和22)年に学校教育法が施行され、その後さまざまな改革がなされて今日のような教育体制になった。公立学校の教師になるためには、教諭免許状を取得し、教員採用試験に合格しなければならない。しかし、教員採用試験は点字での受験が認められていなかった。
教員採用試験において点字受験が認められていなかったとはいえ、現実には全盲の視覚障害者が教師になっているケースは多々ある。それは、教師をしている者が失明した後も教師を続けている場合や、校長の善意で、教諭ではなく常勤講師として採用されている場合などである。
このような状況ではあったが、盲学校で高等部まで学び、その後に大学で教諭免許状を取得し、教師になりたいと思った者がいたことは想像に難くない。教師になりたいと希望する視覚障害者の統計がないので、実態を把握することはできないが、いたことは間違いない。
視覚障害者の教員採用試験が社会問題になったのは、今から半世紀ほど前のことである。
盲学校の高等部を卒業し、その後、大学で教職課程の科目を履修して、教諭免許状を取得した全盲の視覚障害者が教員採用試験における点字受験の実施を大阪府に願い出た。しかし、すんなりとは認められなかった。本人や支援者の粘り強い運動によって、やっと点字受験が1971(昭和46)年に認められた。それは全国で初めてのことである。そして、見事に合格したが、教師としての正規の採用にはいたらなかった。
非常勤講師をしながら、正規の教師すなわち教諭としての採用を求めて粘り強く運動を続けた。しかし、常勤講師として採用されるにはいたったものの、教諭として採用されることはなかった。
やむなく、1973(昭和48)年にも教員採用試験に挑み、再び見事に合格した。二度も合格したのであるからすぐにでも採用すべきとの粘り強い運動が続けられた。大阪府はこの合格者を採用しないまま放置できる状況ではなくなり、正規の教師すなわち教諭として同年9月に採用したのである。こうして、教員採用試験に合格した全盲の視覚障害者の教諭が、全国で初めて誕生したのである。
このように、公立学校の教師になるための教員採用試験における点字受験の開始は、今からおよそ半世紀前の1971(昭和46)年であり、視覚障害者の正規の教師すなわち教諭としての採用の幕開けは1973(昭和48)年のことなのである。そして、当事者によって切り開かれた新職業としての教師、それになることをめざす視覚障害者が次々と教員採用試験に挑戦するようになるのである。
2.全国視覚障害教師の会の設立と活動
視覚障害者になる原因についての実態調査は、管見の限りでは見当たらないので、確実なことはいえないが、およそ次のような状況だといえる。
以上のような状況からして、ここ半世紀ほどの主たる失明原因としては、糖尿病性の網膜症や、網膜色素変性症等の病気、事故などが挙げられる。換言すれば、職業に就いており、働き盛りのときに失明する状況が増えているといえるのである。
(1)会の設立
健常者であって教師をしている者のなかにも、さまざまな原因で失明する者がいる。
兵庫県で公立学校の教師をしていたある人が失明した。本人は失明後も音楽担当の教師として現場で指導にあたりたいと希望した。本人の強い希望により、それは実現した。しかし、中途失明した者が教師を続けるには筆舌に尽くしがたい苦労があることは想像に難くない。
そこで、その教師を支援することや、情報交換したりすることを目的にした組織の結成に向けて取り組むために、視覚障害者の有志が集まって話し合った。そして、視覚障害者で教壇に立っている教師や、教職を志望する視覚障害学生、支援者らが集まり、大阪の地で「全国視覚障害教師の会」が結成された。それは1981(昭和56)年5月3日のことであった。「完全参加と平等」をテーマにした「国際障害者年」の年であった。
「全国視覚障害教師の会」の英語の表記は“Japan Visually-impaired Teachers’ Association”であり、略称はJVTである。
JVTは、今年2022(令和4)年5月3日で、丸41年の歴史をもつ視覚障害教師関係者の当事者団体である。
(2)会の活動
「全国視覚障害教師の会」つまりJVTの41年間を振り返ると、主な活動や会員数は次のような状況である。
主な活動は、授業や職場環境の改善のために、毎年3回の研修会を開催している。それは5月、8月、そして12月もしくは1月に開催されている。特に8月の開催は、JVTの総会と研修会をするために一般的には2泊3日で行われている。その開催地は、会員の居住する全国各地を廻って行われている。
研修会では、さまざまな科目を担当している会員が模擬授業をしたり、視覚障害教師が使えるITの紹介をしたり、悩みごとを解決するための情報交換をしたりしている。
現に教師をしている健常者が、失明したために学校側から退職を迫られたり、トラブルがおきたりしたときに、JVTは、その中途視覚障害者の支援をしてきた。
そのほか、会員間の情報交換や親睦のためにメーリングリストを開設し、最近では月に1回のオンライン交流会も実施している。
JVTの結成40周年を記念して発行された記念誌『ともに働く視覚障害教師たち』によると、JVTがめざす教育は、生徒と教師が全人格的な関係のなかで関わり合い成長すること、また、障害のある者とない者が共に生き、心を通わせる場を創造することである、とされている。
このような教育をめざしているJVTには、視覚障害教師や教職を志望する視覚障害学生が100人以上も会員になっている。
40周年の記念誌によると、2021(令和3)年度現在の会員状況は、次のとおりである。
現職68人、元職30人、教職志望者14人である。
以上の会員のうち、教職志望者14人を除いた会員の勤務校別の内訳は、次のとおりである。
小学校の現職11人、元職3人
中学校の現職5人、元職5人
高校・高専の現職14人、元職8人
大学・短大の現職5人、元職3人
盲学校・視覚支援学校の現職31人、元職7人
視覚以外の特別支援学校の現職1人、元職3人
研究職の現職1人、元職1人
以上のことからして、JVTが、現実に教師をしている視覚障害者や、これから教師になろうと志している視覚障害学生にとって、いかに心強い存在であるかが判るであろう。全盲の視覚障害者が教師として授業をしたり、指導にあたったりするには筆舌に尽くし難い苦労がある。その苦労を少しでも減ずるために、JVTは大きな力となり、関係者に勇気を与えてきたことは改めていうまでもないだろう。
3.JVTの存在意義と教師を続けるための課題
前述したように、2022(令和4)年5月3日は、JVTが結成されて丸41年になる。結成の40周年記念式典や講演会がこの日に開催された。本来ならば、会員が一堂に会して、対面形式で記念の会をするはずであったが、新型コロナウイルス感染症の拡大状況が収まらないために、オンラインでの開催となった。
記念講演をするように私に依頼があった。講演時間は30分である。「JVTの存在意義と、教師を続けるための課題について」と題して講演をした。その概要は以下のとおりである(当日は時間の関係で話し切れなかったことを少し付け加えている)。
(1)JVTの存在意義
これまでに述べてきたように、JVTは視覚障害教師や、教職を志望する視覚障害学生等によって組織されている当事者団体である。そのJVTつまり「全国視覚障害教師の会」の存在意義として、少なくとも次の4点を挙げることができる。
40年以上も続いているJVTは、以上述べてきたような存在意義をもっているのである。
(2)教師を続けるための課題
視覚障害者が教師になり、それを永く続けるためには筆舌に尽くし難い苦労があることや、筆舌に尽くし難い努力がなされていることは想像に難くない。視覚障害教師が、教師を続けるためには、少なくとも次の4点の課題があることを挙げることができる。それらの課題をいかにして解決するかである。
以上の課題を一つでも多く解決することができればできるほど、視覚障害教師は精神的苦痛を感じることなく教師を続けることができるだろうと私は考えている。
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