インタビュー
劇団往来『「…もう一人の君に!」~夏子~』 原作:向本時夫、主演:栄羽のぶ子
ビッグ・アイでの『「…もう一人の君に!」~夏子~』公演終了後、原作者の向本時夫さんと主演の栄羽のぶ子さんに、ワークショップからはじまった今公演の感想やビック・アイについて伺いました。
-向本時夫(むかいもとときお)
はじめに劇団側から「障がい者のみなさんを出演させたい」とお話をいただいたとき、まず考えたのは、障がい者のみなさんが、どうすれば違和感なく作品に参加できるかどうか、ということ。これは自分のなかでの鉄則でもあり、どうすればそうならない出演方法があるのか一番悩みましたね。そこで、ワークショップの進行状況を伺いながら、それならこんなシーンができるんじゃないかと、ひとつずつ作り上げていくことになりました。そのなかで特に意識したのは、障がい者のみなさんを特別扱いするのではなく、それぞれを一人の役者として舞台に送り出したいということでした。最終的に舞台に立たってもらえるかどうかは、プロである演出家の判断にお任せし、自分は障がい者のみなさんが舞台に立たれたとき、いかに自然なシーンになるかを考えました。演出家と「演劇そのものを壊さないように」と相談しながらの作業は徹夜になることもあり、結局すべてのシーンができあがったのは本番前日の夜…。
でも、結果的にあまりわざとらしいシーンはなかったのではないでしょうか。車いすなどの方を除けば、どこに障がい者のみなさんが出演していたのか分からなかったのではないかと。特にエンディングでのみなさんの表情はもう完全に役者の顔でしたしね。今回、障がい者のみなさんと舞台作りをともに行ったことで、多くの方々にも夢を与えられたんじゃないでしょうか。そもそもこの作品は夢を与える舞台ですし、伝えたいことは、夢をあきらめるなって、ことですし。
ビック・アイについては最寄り駅に着いて、まず驚きました。駅から施設までの間、エレベーター利用や段差がありませんでしたし、なかに入っても、宿泊施設からトイレや舞台まですべてがバリアフリー。全国のいろんな施設を見てきてますが、ここまでの施設は見たことがありません。ここならば障がい者のみなさんも苦もなく、活動できるのではないでしょうか。
-栄羽のぶ子(えいはのぶこ)
ワークショップ開始にともない、まず原作の向本さんがお話しされたのは、障がい者のみなさんにもひとりの役者として舞台に立ってもらいたい、ということでした。そこで私たちは、ワークショップを開催するごとに、参加者の成長過程を随時、向本さんに報告することに。それで向本さんが「それならこんなシーンができる」と徹夜作業でいろいろ案を出してくださいました。この2ヶ月間、本当に練りに練った日々でしたね。
またワークショップ参加者には、はじめに「最終オーディションに合格しなければ本番には出られない」と伝えました。そしてすぐに演技指導に取り組むのではなく、簡単なゲームなどからはじめました。すぐに具体的な演技の練習をするのではなく、舞台に立つという意識を高めるために、少しずつ役者の世界感に近づけていく方法なんです。「最後に本当の役者に育ってくれたらいいね」と向本さんとお話ししながら…。
少し経つと、みなさん、ゲームを通して周りの空気を読めるようになってきたんです。役者として必要な感覚なのですが、例えば、ひとつの空間、ひとつのシーンにおいて、全員でひとつの絵を作るという感覚が、みなさんにも分かってもらえたんです。もちろん「はい、ここ歩いて」「ここで笑って」って段取りだけ指導していれば簡単に済むことなんですが、本当の役者に育てるのが目的でしたから大変でした。でも、それは私たちも同じなんですよね。演技ができなかったら、役がもらえないわけですしね。参加者と「プロの俳優はこんなに大変なんですか?」「あなただってプロでしょう!」「え、私も役者なんですか、やった!」なんてやりとりをして、みんないっしょだよって、徐々に厳しい演技の世界を勉強していったのです。
6回という限られたワークショップで、みなさん、よくここまでできたなって思います。この集中力は私たちも見習わなくちゃいけないなって。障がい者のみなさんについて思うのは、彼らが、本当は何がしたいのかということに耳を傾けなければならない、ということです。
ビッグ・アイは、障がい者のみなさんがひとりで来ても利用できる施設になっているなぁ、と思いました。特に宿泊施設ですが、障がい者のみなさんの目線に立った工夫にビックリしました。
- 劇団往来バリアフリーアートアカデミー『「…もう一人の君に!」~夏子~』
-
【プロセス】
2002年当時、向本さんがまだ大阪社会保険事務局に勤務していた頃、たまたま舞台女優の栄羽さんと知り合い、「骨髄移植をテーマにした物語を書いてみたい」と相談したことをキッカケに、この『「…もう一人の君に!」~夏子~』の歴史がはじまりました。
それならば、舞台公演にしようと栄羽さんから劇団往来を紹介された向本さん。さっそく実体験をもとにはじめての戯曲執筆に取りかかり、演出家との幾度ものやりとりのなか、劇団往来文芸部の協力もあり、13稿目でようやく完成。実に4年の歳月をかけて、原作が完成し、2006年6月に大阪で初演を迎えました。